第6回

草紙洗小町(そうしあらいこまち)伝説地

案内:加納 進

京都市上京区東堀川通一条東入ル(一条戻橋を80mほど東)に「小野小町雙紙洗水遺跡・小野通」と刻印された小さな石碑があります。ここに昔、小野小町が草紙洗いに使ったという伝説にまつわる井戸がありました。これより北の路地ほどの細い通を小町通といいます。
このあたりは、謡曲『草紙洗小町』で知られる小町伝説地です。
大伴(友)黒主は、小野小町の名声を妬んで小町を落としいれようとたくらみ、歌合せの前夜秘かに小町の邸に忍び込みます。そして、小町の詠草

   蒔かなくに何を種として浮草の
       波のうねうね生ひしげるらん



を盗み聞きし、それを『万葉集』に書き込み、歌合せの席でその草紙を突きつけて小町の歌は盗作だと言いはります。しかし身に覚えのない小町は、一計を案じしろがねのたらいに水を汲ませ、草紙を水に浸して洗ってみせました。するとあとから書き入れた部分だけは一字も残らずに消えてしまい、小町は身の潔白を証明することができました。
その時使った水は、古くから京の名水の一つとして知られる「清和水」で、この伝説によって以来草紙洗水と呼ばれるようになったといわれます。
大友黒主は、平安時代前期の歌人で、六歌仙の一人として知られ、『古今和歌集』などに秀歌があり、“志賀の黒主”の異名があります。人を陥れるような行為があったというような事実は見当たらず、彼こそ伝説の中で冤罪を着せられた人と言えます。


祇園祭の時に出る「黒主山」は、大友黒主のことです。
黒主が「雲玉集」に志賀の山桜を詠んだ、

  道のべのたよりの桜折りそえて
        薪や重き春の山人

に因んだものです。

 ※謡曲では、大伴黒主としています。

入力:高岡 良次  レイアウト:岡村 拓馬